新聞の小さな天気図に目が止まる。くもの巣状の低気圧がすっぽり北日本を覆っている。オホーツクから日本海にかけては、等圧線がくっつきそうなほど混み合っている。風雪にとざされた駅のホームが目に浮かぶ。衝動は抑えがたい
▼雪の苦労と憂鬱を知っている人には、しかられるだろう。やれやれ、まったく、何にも知らない都会人は…と。それでも行きたい。知らないからこそ行ってみたいのだと、理屈をこね、近所の本屋で分厚い時刻表を買い込む
▼大学4年の冬。北海道の広大な根釧原野を行く急行「ノサップ」は、HOゲージのようだ。カーブに差し掛かると白むくの原野に、赤と肌色の車両が弧を描く。ディーゼルカーは黒い煙を吐くのだと知った。日が落ちると、一面の雪景色が青白く発光した
▼何をするでもない。窓際に人形のように座っていれば気が済む。尻にスチーム熱が伝わる。うとうと、とろけそうになる。曇った窓を手の甲でぬぐう。何もないことを確かめるために来たような、殺風景
▼その10年後。酷寒の江差線に乗った帰り、函館に寄った。「居酒屋兆治」を思い描きながら、場末の縄のれんをくぐる。客はいない。若い女将が一人、テレビのバラエティ番組を見ていた。熱燗を注ぎながら女将が言った。「東京からですか」「東京はいいわね」。一拍おいて「テレビのチャンネルがいっぱいあるんでしょ東京って」。北国願望と東京願望がすれ違う。肩透かしの旅もいい。
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