コラム〈前照灯〉12 【正月のオアシス】

 宗谷本線の音威子府(おといねっぷ)駅前は地吹雪だった。正月三が日の夕方、豪雪の寒冷地に人の姿はない。何度か訪れたことのある駅前食堂は扉を閉ざしている。楽しみだったカレーとラーメンにはありつけない。冬休み、蒸気機関車の撮影旅行には思わぬ困難が立ちはだかる。飯の問題だ

▼1970年代前半の北海道、コンビニもファミレスも何もない。まち全体が凍ったようだ。みんな家族と家にこもり、おせち料理を囲んでいる。いま思えば正月らしさがあった。でも貧乏旅行者にはひもじい。その日の記憶は定かでない。駅の売店であんパンや牛乳を買ったのかもしれない

▼正月の札幌駅、「みかど食堂」は頼もしかった。改札口に近い中二階。いつも営業中だった。根室や稚内や網走に旅立つ前、カレー、ラーメン、カツ丼で一息。雪の砂漠のオアシスだ。現在は巨大な駅ビルとなった札幌。「みかど」の看板は見つからない。消えてしまったのか

▼いま北海道に行くのなら、奥尻のウニ、花咲のカニ、日高のシシャモ、厚岸のカキ、噴火湾のホタテ、標津のコマイ…。きら星のような海産物が浮かぶ。「みかど」にはなかったかな

▼時間が止まったような正月、国鉄は動いていた。元日の早朝、前照灯をともした一番列車が雪の鉄路を出発した。

(O)

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