コラム〈前照灯〉15  【夢の鈍行列車】

年末の大掃除で、棚の奥から古いアルバムが出てきた。1ページ目は、駅のホームで照れくさそうに、首をかしげる小学生時代の自分。半ズボン姿で駅弁を小脇に抱えている。ページをめくると、寒々しい海辺の風景になった

▼切り立った崖に雪が残っている。その崖下のトンネルから勢いよく煙を吹き上げて姿を現した蒸気機関車はハチロク(8620型蒸気機関車)だ。アルバムを眺めるうち、遠い日の記憶がスルスルとほどけていく

▼五能線の深浦あたり。トンネルの黒い穴に、コニカC35のレンズを向けて、じっと身構えた。音だけが鉄路に響いてくる。来るぞ、来るぞ。釣り人が、さおの手応えに興奮するように気持ちが高ぶった

▼車嫌いの父は鉄道が好きで、時刻表からすれ違う時間を計算して、ピタリ当たると「ほら来た」と、自慢するような人だった。その父は、母を家に残して、何かと息子を鉄道の旅に連れ回した。五能線に寄る前に宿泊したのは、雪深い奥羽線・碇ヶ関(いかりがせき)駅前の温泉宿。くすんだチョコレート色の客車で来た

▼当時、上野から青森まで各駅に停まる夜行列車があった。乗り通すと24時間近くかかる。走っているより、停車している時間の方が長いのだ。物音一つしないホームで、後続列車に数え切れないほど追い越された記憶がある。鉄道好きの親子も、あまりの悠長に、とうとう根負けして碇ヶ関で降りたのだったか。列車番号は「421」だった。

(S)

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