江ノ電を描く 【デザイナー・樫山孝男さん〈下〉】   「タンコロ」と数十年ぶりの“再会”

昭和30~40年代の江ノ電。緑と黄色に塗り分けられた小さな電車たちが、まだまだ元気に走り回っていた―。鎌倉市に住む画家でデザイナーの樫山孝男さん(61)が、そんな情景を水彩画で再現、ポストカードの形で発売して好評だ。愛らしくて郷愁を誘う作品の数々には、樫山さんの“少年時代”が込められている。

【上・中・下の3回に分けて掲載します】

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樫山さんは、30年にわたりコンピューター会社に勤め、営業で飛び回る生活を送っていたという。一時は九州にも転勤し、夜遅くまで働く日々が続いた。「まさか、絵を描いて売るようになるなんて…当時は考えもしなかったですね」

ようやく時間に余裕のできた2001年ごろ、絵を始めた。「早期退職して、将来何をやりたいかじっくり考えたんです。いい機会でした」。もともと乗り物好きである上、自動車のデザインをしたくて大学時代は工業デザインを学んでいたという樫山さん。「描き始めたら止まらなくなった」そうだ。

03年に絵画教室に入り、基本的なテクニックを学んだ。絵はがきを手がけるようになったのは04年からで、まずは鎌倉・円覚寺を題材にし、同寺の売店に置いてもらった。観光客が気軽に購入できるようにと、ばら売りで用意。それが好評を博したという。江ノ電を描き始めたのは07年。翌08年には江ノ島電鉄から商品化の承認を受け、自身の「樫山孝男デザイン事務所」を設立した。

「江ノ電を描こうと思ったきっかけは…」。少し考えてから、樫山さんは、鎌倉海浜公園(鎌倉・由比ガ浜)に保存展示されている江ノ電107号、通称「タンコロ」への思いを語ってくれた。「20年ぐらい前、九州から湘南に戻ってきて、由比ケ浜の公園でタンコロに“再会”したんです。ああ、これに乗っていたんだなあ、と思い出して…」。だから、新型車両が増えた今も「あの頃の江ノ電」を描き続けるのだ。

「江ノ電107号とポルシェ356B」

「江ノ電107号とポルシェ356B」

そんな心象風景を基にした作品がある。夜の海沿いを走る「タンコロ」を、詩情豊かに表現した「江ノ電107号とポルシェ356B」。キャプションにはこうある。

《国道134号線の七里ケ浜を107号に併走する自動車に最もふさわしいのは、真っ赤な「ポルシェ356B」だと私は思います。数多い江ノ電の絵の中で唯一の心象と夜景です。ある晩に見た夢を翌朝描きました》。

正確さを旨としている樫山さんが唯一、資料を見ずに描いた作品だという。

(斉藤 大起)

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樫山さんのポストカード「あの頃の江ノ電」シリーズは、1枚160円。主な販売場所は、江ノ電の駅売店(鎌倉、藤沢)、大船・ルミネウイングの書店「アニール」、西鎌倉の「文教堂書店」鎌倉店、鎌倉駅西口の雑貨店「かまくら平つか」、同東口の玩具店「ちょっぺー」など。

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