車窓から見た美しい風景。その場所に行ってみたい。過ぎ去る一瞬、そんな衝動にとらわれるのだが、果たしたことはほとんどなかった
▼京急の下り線に揺られていて、横須賀市に入るとトンネルが増える。闇と闇の間に、ぽっかりと谷戸の風景が展開する。梅の花が点々と咲き、墨絵に描かれた桃源郷のように思える地を実際に歩いてみようと思い立った
▼まず安針塚駅から県立塚山公園を目指す。その登り坂の急なこと。谷戸の奥まで民家が点在している。緑豊かで眺めのいい暮らしだが、日常の買い物をどうしているのだろう。高齢者は車に頼らざるを得ないと想像する
▼公園から峠道をたどり、田浦梅の里に向かう。途中、京急線の線路を目がけて急な階段を下りる。一帯はがけ崩れ防止工事の最中で歩きにくい。京急線のガード下をくぐり、梅の里へ再び急坂にさしかかる。疲労困憊(こんぱい)してたどり着いたときには、花見気分はうせていた
▼「夜目遠目笠(かさ)の内」というが、桃源郷と思っていればよかったと後悔した。歩いてみて、谷戸の暮らしの現実が身にしみた。横須賀市内では谷戸の空き家が増えているらしく、行政課題に挙がっていると聞く。それでも、車窓から清流に架かる細いつり橋など見たら、行ってみたいと思うのだろうが。
(N)
