横浜・磯子と上大岡の間の高台にある久良岐公園は、大樹が空に枝を伸ばし、原っぱが湖のように広がる気持ちのいい場所だ。
その一角に、さびだらけの、荒れ果てた電車が置かれている。横浜市電1156号。年近く前まで市内を縦横に走り、多くの人を運んだ。そのことを伝えるため、市は市電が全廃された翌年の1973年からこの公園で展示してきた。
けれども、時を経るうちに窓ガラスは一枚残らず割られ、ヘッドライトやテールライトなどの部品も失われた。心ない人がいたのだろう。何年か前からは床が抜ける恐れがあると近寄ることさえできなくなり、昨年ついに、取り壊しの話が持ち上がった
この電車を自分たちの手で直そう。鉄道をこよなく愛する本紙記者や市民の呼びかけに、地元の塗装会社、そして横浜市が応えてくれた。この冬、ボランティアで1156号を修復する計画が動きだす。
それは単に趣味的に物を直すにとどまらない。身近な乗り物として生活の傍らにあった市電を残すことは、当時の市民の息遣いを後世に伝えることにもな
る。修復を通じて街の記憶をたどってみたい。
【横浜市電とは】
1904(明治37)年に開業した路面電車で、21(大正10)年から市営に。戦後の最盛期には鶴見、神奈川、西、中、保土ケ谷、南、磯子の7区に総延長51・79キロの路線を運行し、年間1億2千万人を輸送した。しかし利用者の減少などに伴い、72年3月31日に全廃された。
【本社など3者協力】
神奈川新聞社、塗装業・サカクラ(横浜市磯子区)、横浜市の3者は2011年11月15日、市電1156号修復のための覚書を交わした。本社は時代考証や車両部品の調達を担い、本紙記事で修復過程を報告していく。サカクラは塗装など大がかりな修復を、市は電車の保有・管理をそれぞれ手がける。覚書の調印式で市環境創造局の荻島尚之局長は「公園のシンボルにしたい」、サカクラの坂倉徹社長は「花見の時期までにきれいにしたい」と意気込みを語り、本社の熊坂哲司編集局長は「会社一丸となって進めたい」と述べた。
