私のかつての雑文から引用する。「早朝の駅構内。眠りから覚めたC62たち。いたぞいたぞ、足回りに白い蒸気をまといながら暖気する姿。黒々とうずくまっていたものが身を起こし、次第に筋肉に力をみなぎらせていく様子。す、す、すげえ」
▼呉線広駅の朝の光景はつとに知られていたらしい。蒸気機関車牽引の広島行き通勤列車が相次いで出発する。そのさまをこのまま構内で撮るか、それとも沿線に駆け出していくか。迷ったのがいけなかった
▼私は後者を選んだ。しかし、詳しい地図を持たず、下見もせずのうかつさ。出たとこ勝負のポイント探し。案の定、ひとけのない見知らぬ街を右往左往してしまった。汽笛が上がる。もう列車が動きだす。焦りがつのる
▼「撮りテツ」というほどではなかった。カメラも貧弱なら腕前も未熟。ただ機関車を追い掛け、その証拠写真を欲した。いつだったか播但線ではC58とともに田のあぜ道を突進し、クギを踏み抜いて怪我をしたことがある
▼やっと線路ぶちに出た。来る。もう破れかぶれ。あの瞬間は生涯忘れない。以下、再び引用。「灰色の煙を天に吐きつつ、それで半ば天を覆いつつ、ゆっくり近づく。地面に重量感、切迫感が伝わり、強まり、巨人の歩みのような動輪が目前を圧倒していった。蒸気が地を這い、立ち上がり、地響きが残った」―。撮影は結局、失敗に終わった。
(F)
