横浜・滝頭の市電保存館でも、さいたま市の鉄道博物館でも、保存車両の中に入った人はたいていシートに腰を下ろす。子どもも大人も、やっぱり〝乗り心地〟を確かめたいのだ。
久良岐公園の1156にはシートがない。フカフカのクッションが据えられていた台座の上には板が打ち付けられ、公園のベンチのようになっている。つり革も天井の照明もなく、がらんとして物置の風情である。ぜひ「電車らしく」直してやりたいと思う。
まず、函館や長崎など今ある路面電車の事業者に相談した。工場に廃品がストックしてあると思ったからだ。しかし返事は案に相違して「うちも昔の部品がなくて困っているんですよ」とのこと。なるほど、古い電車を大切に使う苦労を垣間見た。が、とにかく手に入らないのだった。
次に相談したのは、日ごろから取材でお世話になっている相模鉄道。廃車の部品を分けてもらえませんかと、思い切って厚かましくお願いした。すると「そういうことでしたらぜひ」と快諾してくれた。
昨年10月24日、2トン車を借りて海老名市の相鉄車両センターを訪ねた。黄色いヘルメットをかぶり工場の奥へ向かうと「休車」の紙が貼られた7000系電車がたたずんでいた。1975年に登場した往年の主力車だ。業務区長の真野秀次さんは「ここから取っていってください」。こんな経験など、そうそうない。急にドキドキしてくる。
これとこれをください、と指さした座席や手すりを工場の人たちは手際よく取り外し、フォークリフトで車まで運んでくれた。目の前にするとやたら大きい。座席は長さ3 メートル、つり革をつるすパイプは4メートル 近くある。車の荷台に斜めに立てかけて何とか収まった。
「長年働いてくれた車両だからね、こういう形で生き残ってくれて、うれしいですよ」。電動ドライバーを握った一人がつぶやいた一言が、胸に響いた。
シートやパイプはひとまず本社に持ち帰り、リスが土の中や木の洞に餌を隠すように、会議室や宿直室の隅々に置いた。会社の面々は目を丸くしつつも、大目に見てくれているらしい。
(さ)
