「窓際の席にすわり、窓枠にあごを載せて流れる風景を眺めるのが当時(5歳のころ)の私の幸福だった」と作家の関川夏央さんは「汽車旅放浪記」に書いている
▼同じ年ごろに自分はと、思い返すと、いつも窓から少し顔を出していた気がする。まだ冷暖房がなく、窓は当たり前のように開け放たれていた。顔面が痛くなるほどの風圧。耳元でボーボー、風が鳴った
▼小学校に上がる前。東海道線・丹那トンネルの手前だった。窓外に顔をのぞかせると警笛とともに鋼鉄の塊が猛然と迫ってきた。ぶどう色の地にいぶし銀のVネックが光った。威圧的な面構えが目に焼き付いた。それが電気機関車EF58だと後から知った
▼「撮り鉄」「乗り鉄」「食べ鉄」ふうに、「顔鉄」というジャンルがあれば、そこに属すだろう。小学生の時のお気に入りは東北線の特急「はつかり」(2代目)の面相だ。息を大きく吸いこんで、止めて、ぐっとこらえた、あの感じ。近所のおばさんの名前が浮かばなくて、「あの『はつかり』みたいな顔の人」と説明して、母に苦笑された記憶がある
▼鉄道博物館入りした新幹線0系を久しぶりに見た。夢の超特急の華々しさが頭の隅にあるせいか、旅やつれした、悲しげな顔つきに見えた。先日、容疑者を乗せて報道陣ひしめく東京駅ホームにゆっくり滑り込んできた「のぞみ58号」。感情を押し殺したような平たいカモノハシの表情も忘れがたい。
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