電車の網棚の前で青年2人が立ち話をしている。「この××車両の網棚は結構スグレものなんです」「ほうほう」「低いうえに物が落ちないよう奥に向かって傾斜がついているでしょ」「ほう」「網目もわざとゴワゴワさせて滑りにくいし」「ほう」
▼二人の話は、ポールの位置、扉、窓、ブラインドの使い勝手にも及ぶ。おそらく鉄道ファンであろう
▼それで網棚の存在が急に気になり始めた。旅行バッグ(あるいは太った手提げ袋)を網棚に載せてみると、はみだしてしまい、隣の客が不安そうに見上げるので、我慢してひざの上(あるいは床)に置き直したことが何度かある。知らず知らず人は網棚と格闘している
▼通勤電車内を前から後ろまで毎日、急ぎ足で往復するおじさんがいる。読み捨ての雑誌をかき集めているのだ。網棚にはそんな効用?もあるのか、と思えば、札幌の市営地下鉄には網棚がないと聞く
▼小学校時代、林間学校へ向かう日光行き貸し切り列車で、何かの弾みに網棚からリュックが落ちた。下に座っていた同級生がそれを(無意識に)ヘディングしてしまい、リュックは見事、窓外に落ちた。お菓子や着替えの入ったリュックの持ち主=私=は泣き出した。すると聞きつけた運転士がなんと列車を止めた。車掌がリュックを拾ってきてくれたのだ。そんな優しい時代があった
▼当時の網棚の素材は卓球台のネットに似ていた。子供心に憎んだのは、オウンゴールした友人より、その網棚だった。
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