‘新幹線’ タグのついている投稿

コラム〈前照灯〉103 【限定富士山車窓風景】

2011年11月11日 金曜日

 夕刻、富士川の鉄橋を渡り、上り「のぞみ」は田子の浦付近にさしかかる。すぐ後ろの座席でさかんにデジカメ(ケータイ?)のシャッター音がする。山側のカーテンを払うと、富士山が窓いっぱいに併走している

▼赤富士になる一歩手前、薄紫色の山容に雲がたなびく。裾野に無数の家々が張り付いている。砂粒のような屋根が宝石のごとくきらめく

▼「お気に入りの景色が見られる区間」はどこ? JTBのアンケート調査によると、全国の車窓風景で一番人気のある区間は「三島~静岡」。もちろん富士山が見えるからである。田子の浦はそのちょうど中間に位置する

▼「鉄道ひとつばなし」(原武史著)は、夏目漱石の「三四郎」を引き合いに出しつつ、当時、東海道本線から見えた富士山について触れている。「車窓に富士山が最初に現れてから最後に見えるまでの距離は約170㌔、時間に換算すると、『三四郎』の書かれた当時(一九〇八年)最も速かった列車ですら少なくとも4時間に及ぶ」

▼それが、丹那トンネルの完成や新幹線開業も経て、今、三四郎と同じように上京したら、車窓から富士山をよく眺めることができるのは、全部合わせても20分余だという。将来富士山の「出番」はもっと減るかもしれない。シャッターを押す。飛ぶように流れる前景の向こう、ピンボケな富士は傾いて写っていた。

(S)