ある土曜日の夕暮れ、都電荒川線の庚申塚駅ホームのベンチで行き交う車両を眺め、至福を味わっていた。車内を明るく照らし出しながら走る路面電車は懐かしさを誘う
▼乗降客に高齢者が目立つのは下町という土地柄ばかりではない。スロープで上り下りできるホームの低さ、車両の乗降も段差のないバリアフリーが利用者に受け入れられているからだろう
▼庚申塚駅にいたのは巣鴨地蔵にお参りし、地蔵通り商店街を歩いた帰りだったこともあるが、居酒屋の開店を待っていたのだ。その店は小さなホームにつながっている。駅ナカどころではない、駅チョクとでもいおうか。午後5時半、開店と同時に入店すると、さすがに店主もギョッとしていた
▼出入り口に近いカウンターの端に座り、杯を口に運んでいると、ガタンガタンと荒川線の走行音が聞こえてくる。出発の際の「チンチン」というベルの音も。この感じが何ともいい。藤沢・腰越電車通りの江ノ電の併用軌道に面した店で、生しらすなどをつまみに飲んでいると窓のすぐ外を電車が通る。これまたいいね
▼大阪・阿倍野の「居酒屋の聖地」と親しまれた名店は、阪堺電気軌道上町線の走る「あべの筋」にあった。同線の走行音を耳にしながら飲んでいると陶然としてきたっけ。店は10月下旬、再開発に伴い閉店したという。昭和は遠くなりにけり、か。
(N)
