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ダイヤ改正の舞台裏 【JR横須賀線・武蔵小杉駅】

2010年3月23日 火曜日

3月13日、JR横須賀線に武蔵小杉駅(川崎市中原区)が新規開業した。特急「成田エクスプレス」や湘南新宿ラインなど、すべての旅客列車が停車する県内有数の拠点駅だ。しかし、その華々しい開業に至るまでには、輻輳(ふくそう)するダイヤを編み上げるという、地道な作業があった。整然として見える時刻表に込められた苦心の一端を、JRの担当者に尋ねた。

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【1年以上かけ計画】

既存の路線に一つ、駅を追加する―。そう言ってしまえば簡単だが、ソフト・ハード両面で、膨大な準備が必要となる。ハードはもちろん、駅の設置。線路をずらして用地を確保し、ホームや駅舎を建設していくこと。これは、横須賀線の車内からも見ることができた。一方、ソフト面のダイヤはというと、「横須賀線に武蔵小杉駅を新設」というリリースの後は、開業間近になって新ダイヤが発表されるまで、その“制作過程”が一般の目に触れることはない。

「どういう輸送体系にするかは、1年以上前から検討してきました」と、JR東日本横浜支社の輸送課の担当者は話す。そのスタートは、「どの列車を停車させるか」というところから。確かに、すべての列車を止めれば便利だが、その分だけ所要時間は延びる。「利便性」と「速達性」の兼ね合いについては、さまざまな議論が全社的に交わされたという。

「全列車停車」の決め手になったのは、「ネットワークの強化」。JR東日本の路線全体を見渡したときに、利用客の選択肢を最大限に広げることが有利だと判断された。「横須賀線と南武線が交差する駅であり、需要喚起やサービス向上につながる、という理由です」と同課。背景には、JR南武線の利用客が増加傾向にあることが挙げられる。2008年度の武蔵小杉の乗車人員は、1日当たり約7万7000人で、1999年度に比べ1万3千人余り増えた。沿線の川崎市の人口も増え続けている。

【千葉、北関東方面にも波及】

停車させる列車が決まれば、具体的なダイヤ作成の作業に入る。「原案を作るのは開業の4カ月前から。2カ月前には時刻表の締め切りがあるので、ダイヤ自体は2カ月で作ります」(同課)。かなりの早業だが、その実際は、連立方程式を解いていくような複雑さがあった。

一つは、新駅設置による影響範囲の幅広さ。既存のダイヤを基にしながら、武蔵小杉のために必要となる2分弱の所要時間増(停車時間と減速、加速の時間)を、組み込んでいくのだが、その影響は、横須賀線が直通する総武本線や成田線、湘南新宿ラインが直通する高崎線や宇都宮線(東北本線)、さらに、それらと接続する各線にまで波及する。長距離運行ならではの事情だ。

それで、影響をなるべく小さくするために、「2分弱」の増加分は、横浜エリア内で吸収することにした。例えば、横須賀線ならば、下りは武蔵小杉~久里浜間を既存ダイヤよりも2分弱だけ後ろにずらし、上りは久里浜~武蔵小杉間を前倒しする、といった具合に。これならば、東京・新宿方面への影響を抑えられる。

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【制約の中で利便性追求】

複雑さのもう一つは、横須賀線のダイヤがそもそも、かなりの高密度であることだ。湘南新宿ラインや特急「成田エクスプレス」「スーパービュー踊り子」、貨物列車など、多種多様の列車が走る。密度の濃さではJR山手線にかなわないが、横須賀線には、異なるスピードの列車が “共存”する独特の難しさがある。さらに今回のダイヤ改正では、「成田エクスプレス」を9往復も増発した。

「一つの線路にいろんな列車が走るので、ダイヤ上の制約が厳しいんです。その上で、お客さまにとって利用しやすいダイヤを目指しました」(同)。利用しやすいダイヤとは、例えば横浜では「成田エクスプレス」(成田空港行き)が横浜発毎時29分・59分、湘南新宿ライン(新宿方面)が毎時03分・16分・33分・49分というように、毎時同分発にそろえられている。1時間ごとに同じパターンの時刻表が繰り返されるので、「パターンダイヤ」と呼ばれ、覚えやすい。増発があっても「同間隔で運転できるよう、ねじ込んだ」という。

並行して、車両や乗務員の動きも考えなければならない。ダイヤ改正のたびに車両を造るわけにはいかないので、ダイヤ全体を少しずつずらしていくことで、ラッシュ時間帯に列車を集中させることも。こうした“目に見えない増発”は今回、横須賀線や京浜東北線などで行われた。

【「次」を見据える】

走り出した新ダイヤ。しかし、輸送課の担当者は、早くもその検証を始めている。実際に各駅へ足を運び、乗客の流れや混雑の度合いを見極めているのだ。「特に今回は、武蔵小杉の開業でお客さまの流れが大きく変わりました。現場に行かないと、それが見えてこないんです」(同課)。

乗客の流れは常に変わっていく。ごく近い将来でいえば、新年度の4月に入ったとき、利用客の新たな動向が見られるかもしれない―。「より良いダイヤを作らなければならない」と口をそろえる担当者。「今回のダイヤは『最終形』ではないんです」と、来年春のダイヤ改正を見据えている。

(斉藤 大起)

◆運賃の変更

武蔵小杉からの営業キロは、従来の南武線・川崎経由に比べ、横浜方面で3.2キロ、東京方面で8.9キロ短縮された。その分、運賃が安くなった区間もある。首都圏各駅の切符売り場にある運賃表も、ダイヤ改正前に書き換えられた。

また、今回の開業に伴い、JR南武線から私鉄(小田急、東急)を挟んでJR山手線(渋谷、新宿乗り換え)へ向かう「JR―私鉄―JR」の連絡切符が廃止された。南武線沿線から山手線方面へ行く利用者の便宜を図り、前後のJR線のキロ数を通算できる決まり(通過連絡運輸)だったが、武蔵小杉に湘南新宿ラインが止まるようになったため解消された(定期券を除く)。