握りと箱詰め

押寿しつくりの工程もいよいよ最終段階。
握りと箱詰めの作業は出荷量を見ながら一体で行われる。
鯵切りの作業場と壁を一枚隔てた大きなスペースには、1時間に約1200貫を製造できるすしロボットが6台並んでいる。
取材時間は午前9時過ぎ。
稼働していたのは1台のみだ。「全台稼働するのは年に数回ですよ」と多武課長。ゴールデンウイークや紅葉など、鎌倉の行楽シーズンとあわせて販売のピークがあるという。

かたちを整えた薄褐色のシャリがベルトコンベヤーにのって流れてくる。
作業ラインには2人が待ち構え、1人がアジの切り身を少し斜めに、添えるように置く。ロボットがかたちを整え、もう一人が箱に詰めていく。
機械的に押し出されてくるシャリ。
押寿しの素朴な味とパッケージとの差に少し意表をつかれた。

実際に今回見学した工場では衛生管理が徹底されている。特に箱詰めや鯵切りの作業を行う第二工場の管理は厳重で、白衣について髪の毛などを粘着テープで取り、エアーシャワーを浴びるなどする。手洗いも消毒効果の高い洗剤を使うため、毎日使用すると手があれる人もいるという。
シャリを手で握って…といった牧歌的な光景は、食品衛生への視線が厳しい現代ではなかなか難しいのだろう。
また、この話は別の機会に記したいが、ほかの弁当に押されている駅弁業界の話は何度かうかがった。
自動化によるコストカット、生産効率のアップも避けては通れない道なのだと思う。
さて、これでようやく私たちの見慣れた押寿しが出来上がった。
が、、しかし、何か足りないものがある。
駅弁つくりの最後の最後の工程、それは・・・・
かけひもと駅弁
駅弁がほかの弁当と違うのは?
工場見学に先立ちこんな素朴な問いを投げかけてみた。
「かけひもとかけ紙ですかね」と星課長。
「駅弁はほかの弁当と違って中身が見えない。だからかけ紙のデザインやかけひもが大切なんです」と続ける。同社でもかけ紙は専属のデザイナーが担当しており、新しい弁当開発のポイントになるという。

かけひもをかける工程は最後の最後。
前工程の箱詰めからベルトにのって流れてきた折り詰めに、かけ紙をかけて、弁当ごとに決められた色のかけひもをかける。その直後に、出荷用のコンテナにおさまっていく。
いわば、押寿しつくりにかかわってきた人たちのアンカーだ。
結び目がずれていたり、だらしなく縛られていては格好がつかない。
片結びの余るひもの長さまで気にしながら、1つずつ人の手で結ばれていく。
この日作業をしていた男性は5年ほどの経験者。最初に残すひもの長さで仕上がりは決まるという。「中身が見られないから外観はきれいでないと」と男性。外観へのこだわりは作業現場にしっかり伝わっているようだ。
クルクルッと回転させながら10秒程度で仕上げた。
出来上がった折り詰めの、どことなく緊張感のある、キリッとしたただずまい。

さて、このかけひも、どこでだれがほどくのだろう…。
夏休みに帰省する家族連れが東海道線のボックス席で。
鎌倉の山のハイキング客が公園の木陰で相模湾をみながら。
駅弁にはそんな物語がよく似合う。
おわり
(※「鯵の押寿し」の表記は一般的には押し寿司、押寿司などありますが商品名に従いました)