厳冬期に一番行きたい温泉は、と問われれば迷わず北海道の新見温泉・新見本館と答える。ニセコの山懐に抱かれた秘湯である。背丈をはるかに越える積雪と地吹雪が迎えてくれる。大量に湧き出る源泉、雪山を望む露天風呂。人を圧倒する自然を前に世俗の小さな悩みなど吹き飛ぶ
▼たどり着くのは容易でない。最寄りは函館本線蘭越駅。朝、羽田から千歳に飛び小樽まで快速エアポートに乗る。ここから鉄道の醍醐味だ。2~3時間に一本の長万部行き鈍行を逃してはならない。雪の峠をいくつも越え2時間、夕景色の蘭越に着く。寡黙な宿の主人が車で迎えに来てくれた
▼函館本線は随分と寂れてしまった。C62重連の急行ニセコが駆け抜けたとき、この山線は蒸気機関車ファンであふれた。上目名、倶知安、小沢、長万部といった駅名を聞けば、当時の興奮がよみがえる
▼駅舎にはカメラバッグに防寒装備の鉄道少年の姿があった。石炭ストーブで暖を取り、氷点下20度の雪山で撮影場所を探した。C62重連ニセコを誰よりも美しくフィルムに収めたかった
▼あれから間もなく40年。鉄道少年が訪れる機会のなかった新見本館は変わらぬときを刻む。そして厳寒を厭わなかった少年は、ゆる~い「温泉おやじ」に姿を変え戻ってきた。
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