おやっ、どこかで会ったような。近所の書店で懐かしい名前を見つけた。広田尚敬。鉄道写真歴60年の大先輩、蒸気機関車の魅力を世に伝えた。30年以上前、彼の写真集を手にしたためにテツになってしまった。”悪い先輩との再会”に心がざわめく
▼「永遠の蒸気機関車」(JTBパブリッシング)は今春、出版されたばかり。まだやっているのか。驚きだ。受験勉強を放りだしての撮影旅行は親を嘆かせた。反省し足を洗った。テツとはきっぱり縁を絶ったんだと言い聞かせた。でも人は昔の享楽に弱い。写真集はいま自宅のソファにある
▼仕事で疲れ帰宅した深夜、一人ページをめくる。蒸気機関車は雪の原野を力強く走ったり、花の野辺でのどかに休憩を取ったりしている。客車や貨物を引いて、あえぎながら前進する姿がいとおしい
▼広田先輩の手にかかると、蒸気機関車はただの鉄の塊ではなくなる。まるで好きになった女性のポートレートを撮影しているようだ。美しい山や川や花畑で見せるいい表情をとらえている
▼先輩は「日本の蒸気機関車は永遠に滅びない、ファンみんなの心の中にとどまる」と写真集で語っている。かつてテツだった中高年が多感だったとき、彼女より愛した大切な相手なのだから。
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